*あなたとわたしの茶番劇(指先 様:*ttp://qqq9.web.fc2.com/ft/)
「あいしていますよ、獣殿」
「──何の冗談だ、カール」
唐突に向けられた他愛無い一言に、酷く動揺した。何とか声を澱ませずに済んだので精一杯だということは、おそらくそんなことをさせた張本人には丸分かりなのだろうが。それでも僅かなプライドだろうか、彼の方を向く事はせずにぼんやりと眼下の円卓を見つめ(るフリをし)ていた。
「何、私の心を素直にお伝えしたまで」
「卿が素直に、だと?道化でもまだマシな真似をするだろうに」
「フフ、如何に捉えるかは貴方のご随意に。──では、獣殿」
ス、とささやかな衣擦れの音が耳元でしたかと思った一瞬後、目の前には艶やかな黒曜石の瞳と白磁の顔(かんばせ)があった。
「返答を、頂きたいのだが?」
「……」
何時の間にやら、顔かたちをなぞるように細くしなやかな指が添えられて。僅かに広げた両足の間に膝を乗せて上から覗き込む、その表情は愉しげな笑みを浮かべている──全くこの仕草、まるでそこらの娼婦のようではないか。
普段は影…というよりは、闇よろしく己の姿を攫ませない所か迷わせ弄して突き放す癖に、時折こうして悪戯に戯れを仕掛けてくる。
今回も何時ものそれだろうかと思いつつも、如何にも「これ」は度が過ぎている。
「あいしている」だなんて、余りにも自分達の関係を語るには遠い言葉だ。例えどんなに繋がれていても、想ったとしても、届きはしない。
彼が映す瞳にこの世界は、自分は、いないのだから。
「ああ、そうだな……カール」
それでも、苛立つこの心は何だといえる。
満たされずに飢えたままのこの想いは何処へ行くというのだ。
──お前にしか、応えられないだろう。
自分の全てを見届けたいというのならば、この飢えを如何にかして見せればいい。いずれ訪れる最後の日まで。
「あいしている、」
今はまだ、茶番劇にしかならなくても。
*「ディエ モルゲンデンメルング」後の獣殿のデレっぷりは異常。先述より更に過去の「アンファング」を聞いてから、終戦間際の「ヴェーアヴォルフ」を聞くと、一挙一動がギャグにしか思えないデレっぷり。
カール?カールはドライになったよ。
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