死ぬるばかりは真(指先 様:*ttp://qqq9.web.fc2.com/ft/)
まるで世界の底のように沈んだ闇ばかりのその場所で、ぼう、と鬼火かと見紛う程の眩しさを持った忌むべき黄金の主──ラインハルト・ハイドリヒ、はそっとまどろみから目を醒ました。今日の日は随分と穏やかであった。近頃は地上から絶えず不遜な爆撃やけたたましいサイレン、加えては人々の─ある者は戦い、逃げ惑い、苦しみもがく─音がしていたのであるから、本当にこの穏やかさは流石の彼にとっても多少驚きの一端として捉えられていた。
しかし、その静寂の中にすら深深と響くものがある。
(ああ、在りし日に愛したものよ)
単なる人々の、其処にある物々の如何ではない。それは確かに、
(お前は、死に往こうというのか)
ひそやかな、けれど揺るぎない「死」の音楽であった。
「──獣殿、」
ふつりとレコードの音が途切れるような、そんな奇妙な違和感と共に落ちてきた一つの音。僅かな灯りしかないこの場所で、その灯りの影にさえ溶け込むかという姿が浮かび上がる。
「随分と、遅かったな……カール」
彼の者の姿を認めて、ラインハルトはきゅっと眉を顰めて己の正面に立った男をねめつけるように見詰めた。不機嫌をありありと示したその表情は、おそらく常人であったならば卒倒者であろうし、彼が率いる人外の騎士たちであっても己が主の有様に閉口し青褪めることになるだろう。
(まるで、幼子のような)
だが、カールはというと、そんなラインハルトの態度に内心、微笑ましいものを感じながら、そっと眦と口の端を其々上下させて苦笑の態を見せ、ゆるりとラインハルトの前に跪いてみせるのだった。
「失礼、我が敬愛なる君よ。思ったよりも貴方を待たせてしまったようだ……此方も些か手筈に時間を費やした故、」
「卿のことだ、また色々と細工に入れ込んでいたのだろうが、」
「全ては来るべき日の為──貴方と私の、福音の為…どうかご容赦を、獣殿」
刺々しく告げられた応えをそっと遮って紡がれたカールの言葉に、ラインハルトは少しばかり閉口してから、やれやれと言わんばかりに溜息交じりの、されども何処か彼らしい威厳を湛えた苦笑をこぼした。
「そう言われては私もこれ以上卿を責められぬな。出逢ったときから変らず、魔術染みた卿の口先には私も叶わぬよ」
その言葉に、灯りに照らされて艶めく黄金の光を映した黒曜石の瞳が悪戯に揺れているのがラインハルトには見えた。
「貴方を負かすなど、恐れ多いこと。私は常に脚本をなぞっているに過ぎぬ詰まらぬ役者だ……道化にも劣るやもしれぬような」
***
なんとなく打ってみた『怒りの日』、獣殿+水星のメモ書き。お題の内容まで触れられてないという体たらく。ドラマCD梯子聴きの衝動のまんまだからね!時間軸は、「ディエ モルゲンデンメルング」と「ヴェーアヴォルフ」(おまけトラック)の間。終戦間際のつもり。
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